肋骨あたりに染み渡る

さきほど取材道中に編集者の青山ゆみこさんに「来週わたし32になります。」と言ってしまったのだけれど、32になるのは明日だった。どうかしている。昨日は9時間で20のイメージ撮影をして、全身パンパンなところに途中変な姿勢で咳払いをして右側の肋骨あたりをひねってからなんだかおかしい。その上、家の手伝いに来てくれていた母から息子の夜泣きの事を「それは夜泣きではないよ。おしっこのせいよ。」と衝撃の言葉が飛んできて、くらくらした。夜泣きというのは「原因がなく、何をしても泣き止まない号泣」のことを言うらしい。確かに寒くなってきてから泣きはじめたし、すぐ泣き止むので夜泣きではないのだろうけど、大変なのにあんまり大変じゃないみたいな状況で腑に落ちない。どっちでもいいんだけれど。

そう、話は戻る。今はフリーの編集者青山さんは31の時に『Meets Regional』の副編集長になられたとお聞きした。いろんなものを担いでいっきに30代を駆け抜けられての「30代、楽しかったですよ。もちろん20代あってのことですよ。」という言葉は肋骨あたりをひねった身体に染み渡った。

ちょうど素敵な20代に触れたのはこの週末のこと。心斎橋で開催中の写真展「しましま」。しましま服が本当によく似合う透明な二人の女の子のはじめての展覧会。会場にあった羊のポストカードを手に取りながら、10数年前の自分を思い返していた。あの頃、京都のいろんな手づくり市に出店しては、自分の写真が誰かの手に渡ることがうれしくてポストカードを一枚一枚売っていた。今、一緒に机を並べて仕事をするようになった小倉優司くんと出会ったのもその時だった。わたしはまだ10代だった。原点は150円のポストカード。そして、そのまんまのキモチで今のわたしたちがいる。

そんなわたしたちも「写真とプリント社」「mogu camaera」「FLAT-FIELD」と3枚看板で運営してきて今月で2周年となる。それを胸に11月27日(土)、小倉優司+平野愛によるフォトイベント<1st window>を開催する。それぞれの窓を開けていこうと決心したのだった。なにぶん築34年の古くて小さなスペースゆえ、詳細はmogu camera(水〜土10:00-19:30)店頭でお配りし、ご予約制に。わたしの気分はすでに映画『ニューシネマパラダイス』。ちょっと違うけれど、夜空に写真を浮かべます。

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そして今夜もやってくる

東京からのお客様と8時間の打ち合わせ。まさに打っては合わせ打っては合わせという作業を繰り返して次への道を作っていく。そうして準備を重ねて撮影の時を迎える。いつの間にか定番スタイルとなってきた。小中高で養った体育会系の根性はこういう時に役立っている。とはいえ、やっぱり8時間はかなりきついのだった。

ついに始まったような感じの息子のささやかな夜泣きもけっこうきつい。この1年は朝まで一度も起きないような息子が、1歳と4ケ月を迎えた頃から夢か何かでびっくりしたように夜中の3時や4時に静かに泣くのだ。それも毎日。目を閉じたまま、正座をして、両手を前に出して、呼ぶように泣く。抱きかかえるとすぐに泣き止んで眠る。眠ったので置こうとするとまた静かに泣く。それをわたしは1時間くらい繰り返すことになる。真っ暗闇の中、無の境地でやっている。自分は寝ているのか起きているのか、座っているのか横になっているのかさえも捉えない。そうしていると不思議に楽なのだ。ただ時間によっては外が白み始め、自分や向き合っているものにはたと気づくことになる。それがきつい。あぁ、見えることの無情さよ。これからは光の中でも無になりたいものである。

「チャンスは準備された心に降り立つ」とは、先日取材先で科学者の藤木道也さんがおっしゃっていたフランスの細菌学者ルイ・パスツールの言葉。偶然や幸運ではなく、十分で周到な準備のもとに人類の進歩に繋がる発見や発明がもたらされるという事。その果てしない科学の世界にほんのわずか触れた時、恐れ多くもあの8時間の打ち合わせも半月ほど続いている自然の摂理にも、全く無駄はないと再確認したのだった。38億年前の生命の源まで思いをはせて。

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マフラーを巻いて出かけよう

季節は進んで冬のよう。今日のような冷たい風が吹くのに先駆けて、アトリエにひょっこり届けてくれた手づくりのマフラー。息子用とわたし用にとチクチクと。春は指人形からスタートして、夏はチューリップハットにニッカポッカにリュックサック。秋には保育園スモックまで作ってくれた。元カメラアシスタントのプロだった彼女は、いまは一児のお母さんとして、そして勝手ながらわたしの心のアシスタントとしてもいつも大活躍してくれている。

そう。30を越えて、子を生んで、心は大きく穏やかに。がイメージだった。全く違った。そんなに全部はうまくはいかず、おちょこぐらいの器の中でもがいている。毎日毎日もがいている。それが現実だった。

そんな混沌としたわたしに先日、編集者の青山ゆみこさんはオフィスの片隅でしみじみと一言おっしゃってくださった。「時期ですよ。時期。」と。そしてアトリエのみんなに後押しされて、週末は中之島で誌上講師させて頂いたり、お母さん向けのプチ撮影会を開いたりと、少しだけいつもと違うことにトライしてみた。この「少しだけいつもと違う」が実は今のわたしにとっては「とてもいつもと違う」のであって、まだまだこれから研究しなければならない。はじまったばかり。という今までになかった感覚がようやくみなぎってきたのだった。

マフラーを巻いて出かけよう。
そしてどこかで待とう。この時期を。

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ハスキーボイスとメンズたち

シャプリアトリエにラジオ大阪さんが収録に来てくださった。編集集団140Bの編集者・大迫力さんがナビゲーターとなって、中之島のあちこちをパーソナリティーさんに紹介される中でのワンスポットに選んでくださったのだ。わたしはこんな時にかぎって喉がつぶれていて低音ハスキーボイス。朝からわたしを含めた”メンズ”3人で初めての事にちょっとそわそわしたりしていたのだけれど、ご来場早々にほとんどリハーサルもなくその場の勢いと雰囲気をぐっと集めて代表の松川くんが全部しゃべって1発録りOKで終わっていった。何の出番もなかった。ほっとした。

それにしてもパーソナリティさんはもちろんのこと、編集者・大迫さんの「しゃべり」は鮮やかだった。その筋のプロかと思った。いつかいろんな番組でご登場される日が来るかもしれない。いや、むしろ来てほしい。

放送は11月6日(土)12:30〜13:00のラジオ大阪「ピピっとおおさか大発見!!」。インターネットラジオでも試聴可能。なんとこの日はメンズパワーがもう一発。シャプリの小倉優司くんが撮影した写真が登場するNHKスペシャルドラマ「大阪ラブ&ソウル」が21:00からNHK総合で放送される。

達者なメンズたちに囲まれながら低音ボイスで張り切るわたしであった。

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明かり取り窓を見上げながら

納品週間もようやく落ち着いてきた。初のパスポート写真も無事に海を越えたし、住まいや学校、ポートレイトなどフィルム写真もデジタル写真もまとまって、ほっと一息。どれもこれもやっぱり手から手へとお渡しする時間を大切にしたいから、できるかぎり直接持って行く。その撮影の、その写真の、ひとつのクライマックスとして。

今日は電車に乗って武庫川へ。真新しい白いお家に親子のイメージ写真をお届けした。大きな額と写真の束、そして10kgの息子を抱えてのお届けは初めての事だった。いつもより荷物が多めの今日は、無事に着けるようにといつもより多めのおにぎりまでリュックに詰めてしまい、実に重かった。

その白いお家は大きなレフ板のごとし。辺りの家々まで光を当てているような輝きだった。室内は明かり取り窓が空間を広げていた。どんなに小さくてもあるとなしでは大きく違う「明かり取り」。自然光を使った照明器具。あらためてその力をみんなで見上げていた。

明かり取り窓に加えて、最近はこんな建材もあるのだと知ったのが2階中庭の床。強力なフェンスのような穴の空いたもの。光の道をできるかぎり遮らないことによって、1階まで光が届いて空間をつぶさないのだ。

ちょっと特殊な写真お届け日もそんな光と笑顔に囲まれて、無事に過ぎ去っていったのだった。

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