こちら寝転びながら

一昨日は仕事場で新聞記者さんとのお打ち合わせ。昨日は進行中のプロジェクトの写真確認と倉庫でのフィルム探しで、ひさびさの長時間労働に脚のふくらはぎが吊りそうになった。そこへ友人からのメール。「油」「断」「大」「敵」の4文字が。そうそうその通り。今日も心にくくり付けて、静かにしている。

寝転んでいても、写真の仕事は撮り終えたと同時にどこかで動いていることもあって、そうしたところが面白い。寝転びながら最近の仕上がりを、いくつか開いてみた。

左上の『ACB』は大阪・京町堀のリノベーション会社アートアンドクラフトさんの会報誌。会報誌だけれど、街のどこかで手にとれたりもする読み応えのあるフリーペーパー。今号の表紙と中身は1回目の入院の直前に撮らせてもらったもの。マンションリノベーションをもっと身近に楽しく安く、それでいて個性的。新しいリノベーションシステム「TOLA(トラ)」の紹介。ホームページのイメージ写真も含めて、どうかこのシステムがより良くより多くの方々に繋がってほしいと思いを込めて、すべて中判フィルムに焼き付けさせてもらったのだった。

その下のカレーライスは何度見返しても食べたくなる。エルマガMOOK『GREEN LIFETIME BOOK』(京阪神エルマガジン社)より。わたしはめったに料理写真は撮らないのだけれど、このカレー写真は最初で最後にして最高。そしてお味こそが最高。木津川のお花とカフェのお店「vert de gris(ヴェール・デ・グリ)」さん。奥様がお花。旦那様がカフェ。奈良の「くるみの木」で腕を磨かれた旦那様のカレーには優しいお野菜がゴロゴロ転がって。夢かと思うような光が射し込む取材だった。このGREENにまつわる担当4ページは1回目と2回目の入院の狭間の調子のよいひとときに。編集さんから「旅気分でどうぞ」というご指示だったため、ならばと、三脚も持たずフィルム一眼レフカメラCONTAX RTSとフィルムコンパクトカメラKLASSE Sだけ首から下げて。フィルムはFUJIFILM PRO400。もうしばらくは取材は難しいため、このカレーライスがほんとに最後かも。いや、わからないけれど。どちらでもいいや。すごいカレーに出会えたから。

そして右上のちらっと見えているのは、もはや撮ってもいない。自分が出てしまっている。写真雑誌『カメラ日和』(第一プログレス)より。デジタル一眼レフカメラNikon「D5100」の作例写真。黄色い帽子のカメラマン小倉優司くん撮影。これも入院と入院の狭間のひとときに。当時息子1歳9ケ月。食事・遊び・睡眠シーンへと段取りよく。被写体のキモチを確認できた、貴重なひとときだった。

こちら寝転びながら、今日も一日お疲れさま。

アートアンドクラフト(HP/News blog竣工写真も担当)
新しいリノベーションシステム「TOLA」(写真は一日のドラマ仕立てを提案&撮影)
京阪神エルマガジン社『GREEN LIFETIME BOOK』(5/20発売1200円)
カメラ日和×ニコンDシリーズ(作例写真誌面全体がちらっと)

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静かに暮らす

霧が晴れて、ずいぶんと身体が整ってきていることを感じる今日この頃。

昨年末の1回目の入院、そして1カ月前の2回目の入院へと進むにつれて身体への自信は消滅していた。そうなるともう一歩も前へ進めない。写真を撮るにも、家族を守るにも、身体への自信を取り戻さなければこの先10年はない。と、心に強く、くくり付けて。静かに暮らす。

多忙な夫は大阪に残留し、週末は息子と再び特急サンダーバードに乗って京都へ。前にも書いたのだけれど、サンダーバードというのは大阪駅から北陸石川・富山を結ぶ特急列車のこと。大阪から京都に行くにはJRの新快速列車が29分と最速で、他には阪急電車や京阪電車がある。もちろん今まではそのあたりを利用していたのだけれど、お急ぎ列車はどうしても混雑する。混雑=感染症のリスクが高まる・座れない・子供が気になる・回りが気になる=疲れる。鈍行列車だったとしてもそれはそれで疲れる。ということから、何かよい方法はないか。最初は新幹線に乗ろうかとさえ思ったくらいだった。そんな中、夫がふいに北陸行きの列車が途中京都にも停車することに気づいたことがきっかけとなって、今や+630円の特急料金で悠々静かな移動ライフを送らせて頂いている。発車時刻も到着時刻も曖昧で、珍しくラテン気質な列車だけれど。

京都はこの日も静かだった。実家の前の京都御所。白シャツにブルージーンズ姿はわたしの母。明るく元気で頑固。三拍子(?)そろったもうすぐ60歳。平日は仕事に出て、週末はややこしい私たちともう1人ややこしいわたしの妹を一気に回転させている。一番ややこしくないのは息子のようだ。そんな息子は2歳を目前に、ちゃっかり写真を撮る時に他の人が座る位置を指示出ししたり(この写真はまさにそれ)、いっちょまえに「イヤ」が言えるように。「イヤ」と言って両手を後ろでキュッと結ぶのだった。それはそれは静かに厳かに。

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霧が晴れたようですね

一昨日、公園の横を渡っていると、向こうの方に何やらニヤニヤ笑いながら歩いている人が見えた。“キモイなぁ”と思った瞬間、それは夫だった。固まった。わずか1秒にも満たない出来事ながら、分からなかったのが恐ろしい。どうやらインターネットラジオを聞きながら銀行に行くところだったようだ。

スモックを逆さに着て元気を取り戻している息子は、「あっち」「こっち」と行きたい方向の指示出しがブーム。それに付き合っているだけで日が暮れる。そして最近両足ジャンプができるかできないかくらいのところで地味に頑張っている。道路の白線のところからジャンプしているのを見た時はちょっと泣けた。高さがなさすぎて。しかも飛べてなくて。

さて、昨日も病院。ここのところ何をしているかというと、病院に行っているとしか言いようがない。あと、郵便局に寄って仕事先の編集部に出し漏れていた高速代の領収書を送ったくらい。そういえばついさっきは仕事場でモグカメラのプリントカットの手伝いをした。少しだけれど、これでも充実してきている。昨日は肺活量の検査だった。嬉しいことに肺年齢38歳(+6歳)に回復していた。わたしの表情を見て、主治医は「霧が晴れたようですね。」と言ってくださった。それは案外意外だった。そうであるならと、わたしは調子に乗って、入院中からいつか見てくださいねと先生に言っていた直近の撮影担当本『天使突抜367』(通崎睦美著)を見てもらった。主治医はぐいぐい前のめりになって、「楽しそうですね。すごく。」と。外来の診察室は一瞬にして違う空気になった。

帰宅後、一本の電話。それは、通崎さんだった。
どこかでいつも繋がっている。
最後の霧が晴れたようだった。

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