わたし、ひとり旅に出る/一息

ふたたび「ひとり」の午後1時半。天気よし。風よし。湿度よし。腰よし。体調よし。遮るものなし。夫、どうしてるだろうとか、息子、どうしてるだろうとか、全然よぎらない。さあどうするどうなる、ひとり旅。

ふと視界の上の方に入ってきたのは、2年前にオープンした大垣書店の四条烏丸店。まだ入ったことはない。道路側に面したガラス越しに設置された8つほどの椅子には、「売り物の」本を読む人で満席だった。買わなくても座って読んでいいシステム、いつから導入されはじめたんだっけ。ついに大垣さんもなのかと、ショックだったり納得だったりしながらエスカレーターで店内へと上昇。向かった先はあるのかないのか分からない芸術書コーナー。あったあった。そうそう、この感じこの感じ。畳一畳分くらいの壁面。その小さなスペースにセレクトされたものを各書店に見に行くのが高校3年くらいからの楽しみだった。畳一畳では飽き足らない時は、今はなき堀川御池の美術書専門出版社「京都書院」で現代美術全集『アート・ランダム』に一冊ずつ出会った(100巻ほどあるのだ。編集は都築響一さん。のちに『TOKYO STYLE』を刊行され、住空間撮影に衝撃を受けた一冊となった。それもここで。「何でもやるなら100やれ。」という都築さんの言葉がいつも頭のどこかにある。)。そして学生の頃は、店全体が芸術書みたいな一乗寺の「恵文社」へ頻繁に寄っていた。ギャラリー勤務時代は、大人の町三条木屋町の大人のアート書店「MEDIA SHOP」を端から端まで眺めたり、憧れたりしながら、現代美術や建築の本に触れていた。あの頃、大型書店だろうが何だろうが、店で座って読むなんて考えられなかった。時代は変わったんだ。

そんな事を思い返しながら、いつの間にか手には写真家・藤代冥砂さんの家族写真集『もう、家に帰ろう2』。すり切れたサンプル本を、立ったまま見入っていた。前作『もう、家に帰ろう』は妻であるモデルの田辺あゆみさんとの結婚生活。これはそこから妊娠・出産・長男の成長と生活。5年間の記録。幸せとか、喜びとか、美しさとかに共感するでもなく。息子と重ね合わせるという感じでもなく。比べるという感覚でもない。心捕らえたのは、小さな龍之介くんの身体にアトピー、喘息の発作と入院、自宅での吸入の風景。240ページの中のたった3枚から広がるその見えない向こう側。子を育てること、子を守ることの不安や葛藤がそっと、いや強烈に向かってきたのだった。思わず目頭の湿度が急上昇。残りの237ページではない、そこに出会えるようになったこと。畳一畳のあの頃には、確実になかった視点。わたし、変わったんだ。

もう満足してしまいそうだった。映画とランチと本屋に行っただけなのに。これからが旅の本番なのに。わたしには行かねばならぬ場所があるのに。

まだ、家には帰れぬ。

(つづく)

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