山その後

1つ越えたはいいが、まだ1つ残っているではないか。

大阪西区の夜7時40分。土佐堀にあるラボでプリントを修正して、江戸堀にある編集部にプリントを届けて、靭にある我が家に戻る。これを無謀にも「30分で帰るしな。」と言って出たからにはのんびりしていられない。帰らねば。もちろん2-3歳くらいの子どもに30分というような時間感覚はない。しかし、 子は子で「”30分”という”やつ”で、帰ってくる」という漠然とした何かを持って、それを信じているからやっかいなのだ。とにかく30分。きっかり30分でなくてもいいのだけど、40分ではダメっぽい。急げ。

駐輪場に自転車を放り込んで、エレベーターで8階。箱がなかなか降りてこない。こういう瞬間が一番長く感じる。富士山でいうところの「8合目」くらい(行ったことないけれど)。もうすぐ頂上なのに。そうしているうちに時刻は35分を経過。ギリギリOKなのか、ギリギリアウトなのか。もう泣き止んでいるのか、まだ泣いているのか。慣れない状況の中、いろんな想像が頭をよぎりつつも、なんとか9合目に到着(玄関)。「”30分”という”やつ”で、帰ってきたよ!」フェイスでドアを開ける。元気よく「ただいま〜!」と言う。も、誰も来ず。音沙汰なし。状況見えず。山の頂きへと続く道(短い廊下)を恐る恐る登っていく。あの岩場(食器棚)を越えれば山頂が見える。恐る恐るのまま、ついに山頂(リビング)へ!

「あ、かぁか。」ソファに横たわりながらトミカを並べてくつろぐ子。「お、かえり〜」とテレビを見て気もそぞろな夫。なんだ、このさりげない感じ は。何事もなかったかのような雰囲気は。山の頂きとはそういうものなのか。そうかそうか、そういうものなんだな。と、ふと子の顔を見ると、鼻も目のまわりも真っ赤っか。後で夫に聞くと、帰ってくる5分前まで泣いていたようなのだ。時計の針を見たり、外を見たり、あれやこれやと言って納得したのが5分前。山頂は山頂で、いろいろあったのだ。5分遅れてよかった。5分早かったら、また違った山がそびえ立ってきていたに違いない。

こうして1ケ月近く登り続けた山々が、ひとつのカタチになった。
Meets Regional』2012年4月号、「大阪西区」特集。
土佐堀のラボから江戸堀の編集部、そして靭公園をぐるぐるぐるぐる。見慣れた風景を切り撮る毎日、編集されていく毎日が、吐きそうなくらい面白かった。熱かった。編集長の蔵さんありがとう。街のみんなありがとう。家のみんなありがとう。

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