アトリエのある古い一軒家

画家の彼女と哲学者の彼の新居へ行ってきた。

彼女とは芸大時代からの長いおつきあい。絵画の展覧会のためには1年間誰とも合わないよくらいのストイックさの持ち主。ゆえに1年以上ぶりの再会はそれはそれは楽しみでしかたなかった。30を越えてなお「同じ」でいれること。話さなくても伝わってきていたことが阪急の梅田駅を出るころから急激にこみ上げてきていた。待ち合わせの岡本駅の改札でその姿を見つけて、駆け寄り思わずお互いを抱きしめ合った瞬間には、もう涙でいっぱいだった。

哲学者の彼は髭と眼鏡。その風貌からすでに仙人と呼ばれているとか。眼鏡の向こうの優しい眼差しは、何年か前に初めて会った時と同じ受容と包容の塊だった。そんな二人の新しいお家は古い小さな木造一軒家。家そのものに手を加えることなく美しく質素に暮らすその手法はセンス抜群。もちろん不便なところもあるけれど、それはすべて納得のいく不便さだからいい。畳、押し入れ、床の間などを文化としてちゃんと使いこなしながらも、絵を描くアトリエがこれまで通りの形で確保されていた。なんとダイナミック。綺麗に整頓された道具置きにはその全てが現れていた。

一緒に行った息子はアトリエの感触が嬉しいのか、ぐるぐると動き回っていた。それがまた嬉しかった。子連れで電車に乗ってどこかに行くなんて、いまだに怖くて全然できなくて、でも初めてちょっと踏み出せて、そしたらたくさんたくさん受け入れてもらって、安心して、息子は座布団の上ですやすやと眠り、画家の彼女は台所で珈琲を挽き始めてくれて、風が吹くと哲学者の彼がそっと窓を締めてくれた。ささやかなひとつひとつが静かで穏やかで嬉しかった。とてもとても嬉しかった。

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