光を見る日

何年かに一度の撮影会。一緒に歩くのは写真家オグラユウジくん。カメラを持って、電車に乗って、お茶を飲んで、いっぱい歩く。そして撮っては確認し合う。わたしたちは18の時に出会った頃から時々そうしてきた。いまや一緒のアトリエで一緒に仕事をするようになり、なおさら大切なことに。それはつまり一緒に見ること感じること。

最初に見たのは波だった。船が来て、波の形は一気に崩れてまた新たな形や色を生み出していた。そうして波に反射する光の移り変わりをしばらく眺めた。隣から聞こえるシャッター音と今ここから聞こえるシャッター音が重なれば、取り戻した何かを感じれた。

雨男と晴れ女。
この日はわたしに味方して、港沿いのそこは青空で、柔らかい風が吹いていた。

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湖東にて

土曜日の正午。小旅行は時間ぴったりに京都の実家からはじまった。わたしは助手席でウトウト寝るという極楽スタイルで、父はハンドルを握り、母は我が息子のお世話をしてくれていた。名神高速からさざなみ街道を通って約1時間半でお宿に到着して、時間ぴったりに企画人の我が妹とも合流。さて、その妹のする事はいちいち”しっかり”していて、通してもらったお部屋はデラックススイートだった。自宅よりはるかに広いのだ。その上、何じゃこれはという什器がそびえたっていた。極めつけに窓の外は一面琵琶湖。そんな空間を息子はいきなり裸足で満喫していた。

今回は妹のお仕事を覗かせてもらうというのも一つの目的。伺ったのはクラブハリエの新しいパン専門店「ジュブリルタン」。企画段階からオープンまであらゆる部分に関わったプロジェクトの一つだそうだ。さざなみ街道沿いに現れた白い壁と芝生と薪のある大きな建物と大きな駐車場。パン屋というからもっとこじんまりとしているのかと思いきや、何じゃこりゃってなくらいの敷地。さすがだ。父はおしゃれなサクサクパンが大好きなので一番にトレーを持ってみんなの分を選び、母は息子の抱っこを担当してくれていて、わたしは煙突やら石釜やらディスプレー台なんかを見て回っていた。一つ一つ妹の説明を聞きながらそのお値段などにも驚き続けた。ゆるやかにカーブする建物のライン、1階のテラスから2階デッキ、そしてカフェ&バールへと続く導線は琵琶湖の風を感じる完璧さだった。さっそくできたてのサクサクパンと、噂のトップレベルのバリスタさんが淹れるコーヒーとともにデッキへ。10月からの新商品という「かぼちゃのパンプディング」は甘過ぎずほどよい口溶けで1歳3ケ月の息子も静かに味わっていた。ジュブリルタンとはフランス語で「時間を忘れる」という意味。確かに琵琶湖の風を感じていると、時間どころか場所さえも忘れてしまいそうな不思議なトリップ感のある新しいカタチのパン屋さんだった。

夕食はお宿のレストランでディナーコースを用意してくれていた。息子にはレトルトの離乳食を用意していたのだが、いまいち好みではないようで、大人のものから慎重に取り分けする方向でまとまった。意外にもヒットしたのがグリッシーニ。クラッカーのような食感のスティック状の細長いイタリアのパン。それをひたすらかじってくれていたおかげで優雅にとまではいかないが久々にコース料理をおいしく楽しめたのだった。朝食は和食のお膳。これまた息子にはちょこちょことお野菜やお豆腐を中心に取り分けていると十分満足して、ご丁寧にも配膳係の方に頭を下げて愛想を振りまいていた。

それから伺ったのは近江八幡の日牟禮(ひむれ)ヴィレッジ。たねやとクラブハリエ。妹のナビゲーションで洋と和のお菓子の世界を行き交ってきた。中でもお昼を食べに入った「日牟禮茶屋」は特によかった。広々とした2階のお座敷が空くのを待って、「せいろ蒸し膳」や「季節のうどん」「バームクーヘン豚の生姜焼膳」などを頼んだ。おだしが抜群。そして息子用に出してくださった湯のみや取り皿がよくあるプラスチック製ではなく陶器というのも素敵。最初と最後には小さな和菓子が添えられてきてかなり癒された。食欲の秋、食べまくりの湖東の小旅行の心地よい締めとなった。1発も泣かずグズらずだった息子。お腹をパンパンに膨れ上がらせて、満を持して喜びの雄叫びを上げていた。それはそれは大きく「ダッダッダッダッダーーー!」と。

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デザインが生まれる状況を

今日はというと初めて息子を連れての実家族旅行で琵琶湖の湖東に来ている。取り合えず着いてほっこりと昨日の事を思い返しているところ。

大阪・住之江の名村造船所跡地で開催中のなんともスマートでクレバーなデザインプロジェクト「DESIGNEAST01」にお邪魔してきた。関西なのに、EAST。なぜ。なるほど。という小さな気づきから出発させてくれる。辺鄙で鉄鉄したかんじの場所で、最初は恐る恐る入ってみたのだが、駅の出口から会場入口、そしてメイントーク会場までへとスムーズでスマイリーなナビゲーションで一気に気持ちがリラックスしたのだった。こんなに気持ちのいいボランティアスタッフが会場を構成しているというだけで、「それ」は間違いないのである。パンフレットの中にあった「デザインが生まれる状況をデザインする」という言葉がそうした人一人から滲み出ていた。ゲストスピーカーのお一人、グラフィックデザイナー三木健さんもおっしゃっていた。企画者たちが徹夜でひっちゃかめっちゃかもがいている姿こそが次世代の人に響いていると。デザインそのもののお話より(いやそれはもうめちゃくちゃ面白かったのだけど)こういうことがわたしにも1番響いて来たくらい、場所全体を本当に真剣に考え抜いてこられたのだなと深く感じ取った。

「ソーシャル・サスティナビリティー / 持続可能な社会」をテーマにされた今回、10年目が来たときにはもしかしたらこのプロジェクトユニットにこそグッドデザイン賞なんじゃないかと思ったりもした。

ただひとつ、ひとつだけ。あるゲストスピーカーがお酒飲みながらのトークショーはやっぱり十歩くらい引いてしまった。だってあんまり素敵じゃないもの。でもそうした状況さえも企画者でありモデレーターの彼等は冷静で真面目で紳士的だったな。それこそ、状況をデザインされていた。

帰り道、会場の階段通路を譲って下さった一人の女性と駅のホームで偶然出合った。とてもよかったですよねと、自然に言い合ってお別れした。普通の事なのに、昨日は妙に嬉しかったのだった。

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点々への視点

これは昨日、ある住まいの剥がされた床の跡。これからまさに「アートアンドクラフト」さんの手でリノベーション工事が始まろうという前の段階を撮影させて頂いていた。この小さな茶色の点線はなんですかとお尋ねすると、これは床材を接着するための糊の跡だと教えてもらった。なんとアーティステック。ダイナミック。コンクリートの上にあらゆる糊やら何やらが重なりあって一つの絵画のようにさえ見えた。こうした土台の上に住まいというのはさらに重なりあって、一つの暮らしというものができあがっていくのだなぁと、おそらくもう外には出ることのないこの模様を眺めて思った。

外にでると点々の雨が降っていた。

点々をすり抜けて次に向かったのはArt Jewelry Exhibition『Liisa Hashimoto / Chair a day』。ジュエリーデザイナーの橋本リサさんによる椅子をテーマにしたアクセサリーの展示会。大阪・本町のギャラリー「ESPACE446」はオフィスビルの奥にひっそりと佇まれていた。リサさんが常にモチーフとされている有機的な葉っぱやツタや雫、無数の小さな丸い点々は、まるで森の奥にでもいるような気持ちにさせられた。この点々がまたものすごい量なのだ。アクセサリーという小さなオブジェなので気づきにくいのだけれど。わたしはその点々が好き。ポートレート写真を撮らせて頂いてから、新たに一つアクセサリーの注文までさせて頂いた。ここぞという時のために。

保育園へのお迎えの時間には少し小さな点々の雨に変わっていた。

家に帰ると息子は右の親指と人差し指で何やら一生懸命つまんで持ってきた。わたしは右手をパッと開けて、ちょーだいと言うとそれはパラパラっと落ちてきた。白い点々。何かと思ったら、いつか息子が飛ばしたごはん粒だった。

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